生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2018年01月22日

近江谷 克裕
第47回 Elucをめぐる旅の物語
-カリフォルニア・サンタバーバラにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
1月のカルフォルニア州サンタバーバラ。半袖、短パンの人を見かけたかと思うと、ダウンのコートに身を包む人も見かける街。日本なら衣替えと共に、冬物衣装、春物衣装と一様に季節に合わせて街の景色は変わるが、アメリカでは衣替えなどという言葉は無いようだ。カリフォルニアでは、人々は自分の体力に合わせて、あるいは自分の好きな季節感に合わせて生きているようだ。
 
カリフォルニアと言えば、青い空。当たり前のことだが、青空の日もあれば、曇り日もある。初日、2日目の青い空も、3日目には雨が降り出しそうな天気(写真1,2)。私が訪問したのはカリフォルニア大学サンタバーバラ校であったが、3日目はあまりの寒さにコート無しでキャンパスは歩けないというのに、行き交う学生たちはTシャツ姿や短パン姿が目に付く。若いせいなのか、出身地の違いなのか?総じて、アジア出身の学生さんたちは厚着を、バイキングの末裔と思われる学生さんたちは薄着のようである。日本にいると感じないことを感じることが、旅の楽しみであろう。
 
私の友人のTodd先生はウミホタルの研究者である(写真3)。20年前には、私が在職した静岡大学で日本のウミホタルを研究したこともある。現在、カリフォルニアに生息するウミホタルVargula tsujii(私のポスドク時代のボスである日系2世のTsuji先生が発見した種)を研究している(写真4)。Todd先生の元、ポスドク2名、博士課程の大学院生4名がウミホタルを研究している。多くの研究者の卵が基礎研究に集中する姿は見ていて気持ちが良いし、彼らとする研究の話も遊びの話もとても楽しい。

いつも思うことだが、アメリカのサイエンスは強い。多くの方々は、アメリカが最新の生命科学研究にのみに力を入れていると思いがちだが、アメリカはベタベタな基礎生物学にもきっちりとお金を入れている。Todd先生はカリブ海のウミホタルの現地調査のためのNSF予算を獲得しており、その資金をもとに学生さん達を連れて数週間も現地調査している。それができるのがアメリカの強みだ。トランプ大統領のお陰でNSFの予算は削られていても、基礎研究を捨てないアメリカに敬意を表したい。

Todd先生は、カリフォルニアに生息するウミホタルが北アメリカ大陸と南アメリカ大陸に分離していた頃に暖かいカリブ海から北上し、西海岸に生息したと考えている。実は、この仮説は私の研究に刺激された一面がある。15年以上前のことだが、私と大学院生の小江君とで台湾から青森までの400か所以上でウミホタルの採取を試み、採取されたウミホタルのミトコンドリアDNAの解析から、日本のウミホタルが数万年前に黒潮にのり北上したことを証明したのである。私も彼に倣って、台湾以南のウミホタルを採取したいと思うが、今の日本の研究予算環境ではなかなか許されそうにもない。

さて、アメリカのサイエンスの強さは、表面的な季節感に合わせたくないアメリカ人気質に共通しているのかもしれない。彼とビールを飲みながら、自分が大切と信じるサイエンスに純粋に取り組むことができる彼をうらやましいと、また、純粋な研究者の「知的好奇心」に答えることができるアメリカがうらやましいと思った。

  • 写真1 晴れた日のカルフォルニア大学サンタバーバラ校の眺め
    写真1 晴れた日のカルフォルニア大学サンタバーバラ校の眺め
  • 写真2 曇った日のカルフォルニア大学サンタバーバラ校の眺め
    写真2 曇った日のカルフォルニア大学サンタバーバラ校の眺め
  • 写真3 海洋バイオリソース施設でのTodd先生
    写真3 海洋バイオリソース施設でのTodd先生
  • 写真4 ウミホタルの飼育設備
    写真4 ウミホタルの飼育設備
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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