生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2017年01月27日

近江谷 克裕
第35回 ルシフェラーゼElucをめぐる旅の物語
-つくばにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
 ちょっとしたことに、お国柄、出身地の違いがでるものだ。例えば、インド人は東より西へ行くほど、一見フレンドリーだがアグレッシブに、南に行くほどハニカミ屋だがマイルドになる。でも驚いたことに、どこの国の人達もスマホ片手に歌う姿に違いはなかった。スマホは便利なもので、歌詞カードになることもあれば、伴奏までしてくれる。年寄りには小さい画面で歌詞を追うことは難しいが、それでもうる覚えで歌うよりはマシと、私もスマホ片手に歌ってしまった。あまりに世界共通のスマホの活用法に笑みがこぼれてしまった。
 1月中旬、つくばで我々が主催する第4回国際イメージングワークショップを開催した。インドを中心に世界各国の20数名の若手研究者がつくばに集った。初日の歓迎会の場であったが、インド、中国、タイの若者、そして日本のおっさんが各国の歌を披露した。皆、ことばの意味は解らないが気持ちは伝わるもので、陽気なリズムには自然に手拍子が、哀愁のこもった歌声には聞き入ってしまうのが、世界共通だった。人間には、肌の色、言語や宗教の違いがあっても、その違いを越えて共通の感情を持つことは可能なのだろう。ワークショップを開催して良かったと感じる一場面である。
 このイメージングワークショップでは日本人研究者が最新の話題を提供すると共に、参加者は発光と蛍光のイメージング技術を最新の装置を用いて実習する(写真1,2)。また最終日には都内の顕微鏡メーカーのショールームを見学するなど、野外活動プログラムもある。ただし、毎年、見学後の浅草ツアーで迷子が出るのが恒例。初年度はせいぜい数倍の倍率であったが、年を重ねるごとに参加者の口コミで評判となり、本年は10倍を超える応募となった。顕微鏡メーカーを始め多くの企業の方にも、お手伝いいただいている。毎回、企業の皆さんに参加者の印象を聞いているが、評判が悪い年は申し訳なくなる。幸いなことに今年の評判は上々であった。
 このワークショップで、私が担当するのは生物発光を用いた細胞の中の遺伝子発現のイメージングである。毎回、同じように「生物発光イメージングの長所と短所は?」と尋ねている。私は技術というものには常に長所と短所があるということを理解して欲しいと思っている。そして、どんな技術でも長所と短所を理解した上で、さらには自分が何を知りたいか?を明確にして、技術を選択することが重要だと伝えている。つまりはワークショップを通じて、発光と蛍光の違いを理解していただき、自分の研究にイメージング技術を活用して欲しいというのが、私の願いである。
 ワークショップの実習最後の日、海外の参加者、サポートをしてくれた研究員、そして参加企業の方々を交えてインド料理店で打ち上げを行っている。恒例だが、美味しいカレーの後はダンスパーティー(写真3,4)となる。たった1週間のワークショップだが、教える方も教わる方も一つの目標を達成した充実感で、自然に一つの踊りの輪ができる。研究者達はこのワークショップを大変だ、大変だとやっているが、若者たちとの年齢の違いを越えて、踊れる楽しさを知っているから、今年も頑張ったのかもしれない。違いを越えることは難しいようで、意外と簡単な事かもしれない。世界がもっと単純であれば、違いは乗り越えられるはずだ。
  • 写真1:顕微鏡の基礎を学ぶ実習生たち
    写真1:顕微鏡の基礎を学ぶ実習生たち
  • 写真2:研究員の説明を真剣に聞く参加者たち
    写真2:研究員の説明を真剣に聞く参加者たち
  • 写真3:私も踊りました!マハラジャダンス
    写真3:私も踊りました!マハラジャダンス
  • 写真4:狭い店内でも輪になってしまうダンスタイム
    写真4:狭い店内でも輪になってしまうダンスタイム
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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