生命科学の大海原を生物の光で挑む

投稿日 2017年03月23日

近江谷 克裕
第37回 Elucをめぐる旅の物語
-ワシントンにて-
近江谷 克裕
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門
トランプ大統領の写真は壁に飾られるであろうか(写真1)?トランプは本当に地球温暖化を信じていないのだろうか?科学的な評価を信じたくないために、科学予算を削減したのだろうか?アメリカのサイエンスはどうなるのだろうか?と、疑問が沸々涌くアメリカ滞在であった。

2月中旬、ワシントンを訪問した。極寒のシカゴ空港経由のはずなのに、シカゴは暖かいし、ワシントンではTシャツ姿の人々に出会った。花も咲き始め、2月のアメリカ東海岸とは信じられない陽気であった(写真2)。これこそ地球温暖化のはずと思いつつ、こんな狂った気候が続いても、トランプは地球温暖化を否定し多くの科学予算を削減してしまったことに疑問が涌いた。が、科学予算を減らせば、地球温暖化の否定も肯定もできないので、トランプにとっては都合の良い選択なのかもしれない。

今回の旅では、アメリカ国立健康研究所群NIHに留学中のN研究員のもとを訪問した(写真3)。NIH建物内の見学中に見つけたのが、歴代大統領がNIHを訪問した際に撮影した写真である。当然、ブッシュ、クリントン、オバマと前大統領の写真が並んでいる。科学研究予算を大幅に削減したトランプ大統領の写真が並ぶのか?夜の飲み会では良いつまみの話題となった。N研究員によると、彼のような留学生たちには予算の動向よりもVISAの問題が深刻とのこと。NIHは多国籍研究者の集まりであり、一度、何らかの理由で出国すれば、国によっては戻れない可能性もあり、こちらの方が大きな問題らしい。

アメリカのサイエンスを支えているのは、まさに多国籍の研究者群である。NIHにも多くの日本人研究者がポスドク研究員、或いは正規研究員として研究を続けてきた歴史がある。しかしながら、N研究員によると最近は減少しつつあるとのこと。現在の外人部隊の主流は400名を越える中国人研究者である。一方、減少したとはいえ、日本人も200名程度は滞在中であり、帰りがけの道で、N研究員より何人かの日本人研究者を紹介された。何人かと話した後の私見だが、中国人研究者はアメリカで生き残るために、日本人は箔をつけ日本で生き残るためにNIHにいるような気がした。様々なスタイルの研究者を包括できるのもアメリカの研究社会の強さかもしれない。

ワシントンでは、以前も紹介したNIST(アメリカ国立標準研究所)も訪問した(写真4)。この研究所は国策を担当する政府系の研究機関のせいか、トランプ旋風の影響も少ないようである。ここを見る限りアメリカのサイエンスを支えるのはアメリカ人。アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のためのサイエンスも存在することがわかるような気がする。しかしながら研究者達は強かで、基礎研究を楽しんでいる部分も大きい。これがアメリカの強さの源泉かもしれない。

さて、アメリカでの個人的な日々の疑問、悩みはチップの額である。ベットメイクは1ドルでよいのか?レストランのチップは15%、それとも20%なのか?今回、驚いたのは、あるタイレストランで初めから20%のチップが請求されたこと。チップとは客がサービスを評価して支払うもののはずなのに、店が決めてしまうのは行き過ぎのような気がした。アメリカはトランプと同様に、評価というものを嫌う国になったのかもしれない。
  • 写真1 NIHの建物内に飾られた歴代大統領の写真
    写真1 NIHの建物内に飾られた歴代大統領の写真
  • 写真2 NIH構内では早咲きの花が咲いていた。
    写真2 NIH構内では早咲きの花が咲いていた。
  • 写真3 研究室で働くN研究員
    写真3 研究室で働くN研究員
  • 写真4 NISTの庭の鳥たち、春めいた景色。
    写真4 NISTの庭の鳥たち、春めいた景色。
著者のご紹介
近江谷 克裕(おおみや よしひろ) | 1960年北海道函館市に生まれる。1990年群馬大学大学院医学研究科修了。ポスドクなどを経て、1996年静岡大学教育学部助教授、2001年より産業技術総合研究所研究グループ長に就任、2006年10月より北海道大学医学研究科先端医学講座光生物学分野教授に就任、2009年より再び産業技術総合研究所研究主幹研究員を経て、2012年より現産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門研究部門長に就任。生物発光の基礎から応用まで、生物学、化学、物理学、遺伝子工学、そして細胞工学的アプローチで研究を推進する。いまでも発光生物のフィールドワークがいちばん好きで、例年、世界中の山々や海で採取を行っている。特に中国雲南省、ニュージーランドやブラジルが大好きである。
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